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岡山地方裁判所倉敷支部 昭和49年(ワ)8号 判決

原告

早崎千笑

被告

新居廣志

ほか一名

主文

一  被告新居廣志は原告に対し、金九五万二七七四円と、内金八三万二七七四円に対する昭和四八年四月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告片岡工業株式会社は原告に対し、金一三四万二七七四円と、内金一二二万二七七四円に対する昭和四八年四月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告両名に対するその余の請求を、いずれも棄却する。

四  訴訟費用は四分し、その一を原告の負担とし、その余は被告両名の連帯負担とする。

五  この判決は原告勝訴部分にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一原告

一  申立

1  被告らは原告に対し、各自金一八〇万一四二八円と、内金一六五万一四二八円に対する昭和四八年四月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  主張

(一)  請求原因

1 交通事故の発生

(1) 日時 昭和四七年二月五日午後五時二〇分ころ

(2) 場所 倉敷市玉島乙島六七五四番地

(3) 加害車 被告片岡工業株式会社(以下被告会社という)所有普通貨物自動車(岡四ひ九二六七号)(以下甲車という)

被告新居所有自動二輪車(岡さ九九九号)(以下乙車という)

(4) 右運転者 甲車 藤井寿久

乙車 被告新居

(5) 被害者 原告

(6) 態様 甲車が先行、乙車が後行して交差点にさしかかり、乙車が甲車を追い越して直進しようとして甲車の横に出たところ、甲車が右折を開始して乙車と衝突し、乙車の後部に乗車していた原告が被害にあつた。

2 原告の受傷

(1) 病名 脳震盪、頸部挫傷

受傷当時、意識障害、右耳出血、著明な頸部の腫脹あり、また、後遺症としては、頭痛、頸部痛、視力障害、右難聴、聴力低下、歯牙折損、生理不順(出血なし)、嗄れ声、握力低下等があつて、少くとも自賠法施行令別表一二級以上の後遺症ありとされ、それに該当する保険金の支払を受けた。

(2) 入院 昭和四七年二月五日から同月八月六日まで一八四日間

(3) 通院 同月七日から昭和四八年四月五日(症状固定日)まで二四二日間

3 被告らの責任

被告会社は甲車の、被告新居は乙車の各所有者で、それぞれその車を自己のため運行の用に供し、それによつて本件事故を生じさせたのであるから、被告らはそれぞれ自賠法三条に基づき原告が蒙つた損害を賠償する義務がある。

4 原告の損害

(1) 医療関係費 金一六四万八〇四〇円

イ 治療費 金一四七万八四七〇円(高越病院改名玉島中央病院)

金一万四五六〇円(鳥越歯科医院)

金一四五〇円(石眼科)

ロ 入院中付添費

一〇〇〇円(一日当り付添費)×九五日=金九万五〇〇〇円

ハ 入院中雑費

三〇〇円(一日当り雑費)×一八四日=金五万五二〇〇円

ニ 通院交通費

八〇円(往復バス代)×四二日=三三六〇円

(2) 休業損害及び逸失利益 金一〇六万〇一〇八円

イ 原告は本件事故前株式会社クラレ玉島工場に勤務していたが、昭和四七年一月一八日右会社を退職し、同年二月六日から有限会社双葉食堂に月給金三万六〇〇〇円で就職することになつていた。しかしながら、本件事故のため現在に至るも働くことができない。そこで、前記後遺症固定時(昭和四八年四月五日)までを休業損害期間とみれば、この期間の損害は、金三万六〇〇〇円×一四ケ月=金五〇万四〇〇〇円となる。

ロ 次に、それ以後の逸失利益については、口頭弁論終結時までの一般的な所得の増加を当然考慮に入れるべきであり、昭和四八年の賃金センサスによれば、同年の一八、一九才の女子労働者の平均所得は、きまつて支給する現金給与月額が金五万円、年間賞与その他の特別給与額が金七万六二〇〇円で、年間の所得額は、金五万円×一二ケ月+金七万六二〇〇円=金六七万六二〇〇円となる。原告は右後遺症固定時以後七年間労働能力の一四パーセントを喪失すると考えられ、その逸失利益を算出するにあたつては、右基準額によるのが相当であるから、これによつて年別複式ホフマン方式により年五分の中間利息を控除して右期間中の逸失利益を求めると、

金六七万六二〇〇円×〇・一四×五・八七四三=金五五万六一〇八円となる。

(3) 慰藉料 金一四〇万円

原告の本件事故による入、通院期間は、前記のとおりである。なお、原告は頭部外傷(脳挫傷)、頭蓋底骨折、頸部捻挫、左半回神経麻痺等の後遺症で自賠法施行令別表一二級とされたが、右別表に該当しない後遺症が多く(例えば、月経喪失、発声障害、脳波異常、歯牙三本折損)、これらの後遺症は別表に該当しないというだけで無視されるべきではなく、慰藉料を考えるにあたり当然斟酌されるべきである。右のような傷害を受けた原告の精神的苦痛を慰藉すべき金額は、金一四〇万円が相当である。

(4) 弁護士費用 金一五万円

支払約束をした報酬金額

5 損害填補額 金二四五万六七二〇円

(1) 治療費

被告会社支払分金六七万三二三五円と被告新居支払分金三六万四七八五円の合計金一〇三万八〇二〇円

(2) 休業損

被告会社支払分金二二万九九〇〇円と被告新居支払分金一四万八八〇〇円の合計金三七万八七〇〇円

(3) 自賠責保険より金一〇四万円

6 よつて、原告は被告らに対し、各自自賠法三条に基づき、第4項の(1)ないし(4)の損害合計金四二五万八一四八円から第5項の損害填補額を控除した残金一八〇万一四二八円と、これより弁護士費用を控除した金一六五万一四二八円に対する昭和四八年四月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二)  被告らの抗弁に対する認否

いずれの抗弁事実も否認する。

三  証拠〔略〕

第二被告新居廣志

一  申立

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  敗訴の場合、仮執行免脱宣言

二  主張

(一)  請求原因に対する認否

請求原因中第1、第3、第5項の事実は知らない。認めるが、第2、第4項の事実は知らない。

(二)  抗弁

本件事故当時、被告新居と原告とは交友関係にあり、特に、事故当日も原告の求めによりドライブに出たもので、本件事故はそのドライブ中に生じたものである。よつて、原告は共同運行者の地位にあるとみるべきであるから、損害額の算定につき、過失相殺が行なわれるか、または、これを斟酌すべきである。

三  証拠〔略〕

第三被告片岡工業株式会社

一  申立

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

二  主張

(一)  請求原因に対する認否

1 請求原因第1項中(6)の事実は否認し、その余の事実は認める。

2 同第2項中原告が後遺症一二級の認定を受けたことは認めるが、その余の事実は知らない。

3 同第3、第5項の事実は認める。

4 同第4項の事実は知らない。

(二)  抗弁

藤井寿久は甲車を運転し、幅員約九メートルのいわゆる玉島産業道路を北進して来て本件事故現場交差点を右折するため交差点手前約一五メートル地点より最徐行するとともに、右折方向指示器を作動して右折態勢に入り、自車が交差点中央線を跨ぐまで進行した時、突然後続車の陰から猛スピードで追越しをかけてくる乙車を認め、直ちに停車したが、その瞬間自車右前部へ乙車が接触して本件事故に至つたものであり、本件事故は自動二輪車を運転していた被告新居の前方不注視及び追越不適並びに速度の出しすぎ等ほぼ一方的かつ重大な過失に基因するものである。そして、好意同乗者たる原告は被告新居といわば危険共同体ともいうべき立場にあつた者であるから、損害額の算定につき、過失相殺が行なわれるか、または、これを十分に斟酌すべきである。

三  証拠〔略〕

理由

一  被告らの責任

請求原因第1項中(1)ないし(5)の事実並びに同第3項の事実は当事者間に争いがなく、右事実によれば、被告らはそれぞれ自賠法三条に基づき、原告が蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

二  損害

(一)  原告は本件事故により、次の傷害を受けた。

1  〔証拠略〕によれば、原告は本件事故により、脳挫傷、頭蓋底骨折、歯槽骨骨折、鼻膣損傷、頸部捻挫、左反回神経麻痺、外傷性歯牙欠損の傷害を受け、次の各治療を受けた。

(1) 玉島中央病院(高越病院改名)昭和四五年二月五日から昭和四七年八月六日まで入院(一八四日間)

同月七日から昭和四八年四月五日まで通院(二四二日間)

(2) 鳥越歯科医院 昭和四七年八月一〇日から同年九月一二日まで通院(三四日間)

(3) 石医院 昭和四八年一月一七日(一日間)

2  〔証拠略〕によれば、原告は右治療にもかかわらず昭和四八年四月五日、自覚症状として、頭痛、左耳耳鳴り、左肩甲部痛、生理不順、発声障害を、他覚症状として、脳波異常、視力低下(両眼共事故前〇・四から〇・一に)、左反回神経麻痺による嗄れ声、左肩内分まわしに軽度の障害があり、左手が右肩甲部に達しない等の障害を遺して症状固定したことが認められ、その後遺症状の程度を労基法施行規則別表第二の障害等級にあてはめると、少くとも同表の障害等級第一二級に該当するものと認められる。

(二)  そこで、原告が右受傷により受けた損害につき検討する。

1  医療関係費

(1) 〔証拠略〕によれば、原告は前記玉島中央病院で金一四七万八四七〇円、前記鳥越歯科医院で金一万四五六〇円、前記石医院で金一四五〇円の各治療費を要し、合計金一四九万四四八〇円の損害を受けたことが認められる。

(2) 〔証拠略〕によれば、原告の前記入院期間のうち九五日間は付添看護を要し、その間原告の実母が継続して付添看護にあたつたことが認められる。そして、近親者の付添看護料としては一日当り金一〇〇〇円と認めるのが相当であるから、原告の付添看護を要したことによる損害は、合計金九万五〇〇〇円となる。

(3) 原告が一八四日間入院したことは前記認定のとおりであり、入院期間中一日当り金三〇〇円を下らない諸雑費を要することは公知の事実であるから、原告は右入院期間中合計金五万五二〇〇円の諸雑費を要し、これと同額の損害を受けたことが認められる。

(4) 〔証拠略〕によれば、原告は西百合勝方から玉島中央病院へ少くとも四二日間通院し、通院にはバス若しくはタクシーを利用し、右通院に要するバスの往復料金は金八〇円であつたことが認められるので、原告は右通院のため少くとも金三三六〇円を要し、これと同額の損害を受けたことが認められる。

(5) 原告の以上(1)ないし(4)の損害額を合算すると、金一六四万八〇四〇円となる。

2  休業損害及び逸失利益

(1) 〔証拠略〕によれば、原告は昭和四六年三月二六日株式会社クラレ玉島工場に工員として就職したが、昭和四七年一月一八日職場内の人間関係が原因で退職し、本件事故の翌日の同年二月六日から有限会社双葉食堂にウエイトレスとして就職することに内定していたが、本件事故に遭遇したため就職できず、その後昭和五〇年二月六日に至つてもなお、後遺症状が存するため就労するだけの自信がなく、家事手伝をする程度にとどまつていることが認められる。

(2) 右事実に、前記(一)で認定の原告の傷害の部位程度、その治療状況等を総合して判断すると、原告は本件事故の翌日の昭和四七年二月六日から症状固定日の昭和四八年四月五日までは就労することができなかつたものと認められ、〔証拠略〕によれば、原告は右双葉食堂で月給金三万六〇〇〇円を支給されることになつていたことが認められるので、右休業期間中に原告が失つた収入は、合計金五〇万四〇〇〇円となる。

36,000円×14ケ月=504,000円

(3) そして、前記(一)で認定の後遺症の程度並びに〔証拠略〕によつて認められる症状固定後の原告の生活状況、その回復の見込等を総合して判断すると、原告の前記後遺症は少くとも昭和四八年四月六日から昭和五一年四月五日までの三年間存続し、右期間中の原告の労働能力喪失の程度は、右期間を通じてみれば一四パーセントと認めるのが相当である。

ところで、原告の右症状固定時の収入について検討するに、右受傷時以後の賃金体系全体の基準の引上げ等による賃金の上昇は当然考慮すべきであつて、被告会社との間では成立に争いなく、従つて被告新居との間でも〔証拠略〕によれば、原告は昭和三一年一月二九日生れで右症状固定時には一七才二ケ月余になるところ、昭和四八年の賃金センサスによれば、一七才までの女子労働者の平均賃金は年間金五九万四九〇〇円(44,100×12+65,700)

であることが認められ、原告は当時少なくとも右程度の年収はあげることができたものと認められるので、原告の前記労働能力喪失による逸失利益を前記症状固定の時点において一時に支払いを受けるものとして、ホフマン複式(年別)計算法により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、金二二万七四五四円(円未満切捨)となる。

594,900円×0.14×2.731=227,454円

(4) 原告の以上(2)、(3)の損害額を合算すると、金七三万一四五四円となる。

3  慰藉料

(1) 〔証拠略〕によれば、本件事故は玉島産業道路(車道幅員九メートル)を北進してきた藤井運転の甲車が、本件事故現場の交差点(交差道路の幅員約四・五メートル)で時速約三五キロメートルで右折中、同車後方より同車を追越そうとして道路中央線右側を時速約五五キロメートルで北進してきた被告新居運転の乙車と同交差点内で衝突し、乙車後部に乗車していた原告が受傷したもので、藤井には方向指示器による右折の合図をしたのみで、対向大型車を避けるため道路左側に寄つた位置から後方確認不十分のまま前記速度で右折した過失が、被告新居には甲車が直進するものと軽信し、甲車の方向指示器による合図を見落し、かつ甲車の動静につき注視を怠つた過失(本件交差点は追越禁止場所ではない)がそれぞれ認められ、双方の過失を割合によつて示すと、藤井の過失六、被告新居の過失四と認めるのが相当である。

(2) また、〔証拠略〕を総合すると、原告と被告新居とは本件事故当時親交があり、事故前にも同被告運転の乙車に原告が同乗しドライブしたことが度度あつたが、事故当日はデートの約束をしていたので、同被告において乙車を運転して待合せ場所の東小高地バス停に赴き、同所で原告を乙車後部に同乗させ、行先は決めず漠然と玉島市街地に向け産業道路を北進中、本件事故を惹起したことが認められる。

(3) 被告会社は、本件事故は被告新居のほぼ一方的かつ重大過失に基因するものであるところ、好意同乗者たる原告は同被告と危険共同体ともいうべき立場にあつたのであるから、過失相殺若しくは損害額算定につき右事情を十分斟酌すべきであると主張するが、原告と被告新居とは単なる友人であつて身分上、経済上の一体関係は存在しないのであるから、同被告の過失を原告側の過失とみることはできず、被告会社の主張は理由がない。

(4) 次に、被告新居は原告が同被告と共同運行者の地位にあるとみるべきであるから、過失相殺若しくは損害額の算定につき右事情を斟酌すべきであると主張するので検討するに、原告は共同運行供用者とは認められないものの、前記認定の原告と被告新居との関係、同乗の目的態様等を考慮すると、同被告については、原告に生じた慰藉料額のうちその三割を減額するのが相当である。

(5) 前記認定の原告の傷害の部位程度、入通院期間、後遺症の程度等を考慮すると、原告の精神的肉体的苦痛に対する慰藉料は、金一三〇万円と認めるのが相当であり、被告新居については、前記事情によりその三割を減額した金九一万円の賠償義務を認めるのが相当である。

4  損害の填補

原告が被告両名から合計金二四五万六七二〇円の損害の填補を受けたことは当事者間に争いがなく、前記1ないし3の損害合算額(被告会社に対して金三六七万九四九四円、被告新居に対して金三二八万九四九四円)から右填補金額を控除すると、被告会社に対して金一二二万二七七四円、被告新居に対して金八三万二七七四円となる。

5  弁護士費用

原告が本件訴訟追行をその代理人に委任したことは記録上明らかであり、本件事案の内容、審理の結果、右認容額等諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある損害としては、金一二万円と認めるのが相当である。

三  結論

以上の事実によれば、被告新居は原告に対し、金九五万二七七四円と、内弁護士費用金一二万円を除いた金八三万二七七四円に対する昭和四八年四月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、被告会社は原告に対し、金一三四万二七七四円と、内右弁護士費用を除いた金一二二万二七七四円に対する同日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うべき義務がある。(ただし、被告新居の支払額の限度で不真正連帯債務となる。)

よつて、原告の被告両名に対する請求は右の範囲内で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して 主文のとおり判決する。

(裁判官 河合治夫)

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